« GyaOで訪欧歌舞伎公演inロンドン | トップページ | 「獅子虎傳阿吽堂vol.3」出演者決定! »

2006年7月29日

魅せられて

どうやら、わたしは「海神別荘」にすっかりハマッてしまったらしく、昨日(28日)、また見に行ってきました。ど~しても1階から公子さまを見たくて青ポチッしちゃいました。なぜにこんなに「海神別荘」に嵌まってしまったのか自分でもよく分からない。泉鏡花は決して好きな作家ではない。というよりも鏡花の世界は苦手だと言っても良い。なんだか分からないけれど、公子さまの言動にいたく共鳴してしまったらしい。

前半の公子の率直さや無邪気さや勇ましさもさることながら、美女が到着してからの後半が好き。鎧をつけた公子を見て美女が怖がるところで『解いても可いが、解かんでも可かろう...最初に見た目は何処までも附絡う(中略)』とても思慮深い言葉。あるがままの自分を見て受け入れて欲しいという気持ちが表れていると思う。

『敵のない国が、世界の何処にあるんですか。仇は至る処に満ちている(中略)』(この言葉は、統治者として現実をきちんと見据えている)と言いながら、美女の後ろに歩みよってマントで美女をくるんで『閨に唯二人あるときでも私は脱ぐまいと思う。私の心は貴女を愛して、私の鎧は、敵から、仇から、世界から貴女を守護する。(中略)毒竜の鱗は絡い、爪は抱き、角は枕しても聊かも貴女の身は傷つけない...』ここのところは、つまり全身全霊で愛すると言っているわけで、ぐぐっときました。後ろから抱きしめられてこんなこと言われたら、もう、わたしなんぞはメロメロでございます(^^;。美女もうっとりとした顔していましたっけ。

この後の美女と交わす会話でも、いわば俗念にとらわれた美女の言葉に対して思慮深い言葉を返しかなりの寛容さも見せている。にもかかわらず、公子の言葉を信じようとせずに陸に帰り海に戻ってきた美女が嘆き悲しむ。

『何処まで疑う。おまえを蛇体と思うのは、人間の目だというに。俺の...魔...法』という公子の声は怒りというよりも悲しみの色が濃いように感じた。美女が嘆き悲しんでいるから殺すというよりも、自分の言葉を信じようとしない美女、そして、美女の「貴方の魔法です。」という言葉が、美女を決して傷つけるようなことはしない、貴女を守ると言い続けていた公子の心を傷つけ、それが公子の怒りとなったのではないかと思う。

『自分でお殺しなさいまし』という美女の言葉。これはある意味美女の愛の告白の発端でもあるような気がする。わたしだったら、毛嫌いしている人になんぞ殺して欲しいとは望まない。それくらいだったら、黒潮騎士の方がまし。美女は、恐らく会ったときから公子のことが好きではあった。そのことに気がついていたけれどそれをすぐには認めたくなかった。それと美女はどこかで公子は自分を殺すことはないだろうと思っていたのではないだろうか。(たぶん、公子も本気で殺す気はなかったと思う。)

だからこそ、『自分でお殺しなさいまし』という言葉で挑発して、お互いの顔が見えるようなところに来させて、自分の正直な気持ちを伝え公子の気持ちを確かめたかったのではないかと思う。美女の『その顔のお綺麗さ...』というフレーズは、命乞いの言葉というよりも美女の公子に対する心からの気持ちを述べたものなのではないでしょうか。

初日に見たときは、海老蔵さんの台詞がちょっと滑り気味だったので、正直どうなることかと思いましたけれど、24日、28日と見た限りでは、公子の言葉としてひとつひとつの言葉を丁寧に伝えようとしていたし、細やかな感情の動きを声のトーンを変えることで表していたように感じました。特に28日の『何処まで疑う。(中略)俺の...魔...法』のところの感情の揺れがとても繊細に表現されていたように思います。

猿弥さん、笑三郎さん、門之助さんをはじめとして腰元の方々と全体的に役者さんが揃っていたこともあって、見ごたえのある舞台になったのではないでしょうか。

参考文献:岩波文庫「海神別荘」

席:1階8列目中央

|

« GyaOで訪欧歌舞伎公演inロンドン | トップページ | 「獅子虎傳阿吽堂vol.3」出演者決定! »

「歌舞伎」カテゴリの記事

コメント

東京にいたら、私も通っちゃってたと思います。
一度しか観ていませんが、私も海神別荘が一番!断トツに好きです。
なんと言っていいのか、海老ちゃんの魅力が発揮されているし、
キャラクターというのか、全体にはっきりとした色があるし、
本当に良い舞台でした。

投稿: 恵美 | 2006年7月29日 22:22

公子さまのキャラクターをこれだけハッキリと出せる人は少ないでしょうね。原作よりも舞台の公子さまの方がうぅ~んと魅力的。文章で読んでも?と思うフレーズでも、公子さまの感情をきちんと伝えようとしているので、心の動きが分かってとても共感しやすかったのだと思います。

投稿: kirigirisu | 2006年7月29日 23:19

kirigirisuさま
うらやましい(←いつもコレですが)。青ポチッで8列目中央なんて、うらやまし過ぎです。
私が観たのは7月17日 中日あたりでしたが、たくさん漢字の入った難しいセリフ(笑)を、公子さまが流れるように語っていらしたという印象があるのですが、日を追うごとに進化されたようで、-感情の揺れを繊細に表現されたセリフ-改めてまた観たい思いを強くしました。でもそれもままならず、こうしてkirigirisuさんのレポを読ませていただくのが本当に楽しみでした。いよいよ明日千秋楽。今の公子さまにはもうお目にかかれないと思うと寂しいですね。


投稿: スキップ | 2006年7月31日 02:27

スキップさん、こんにちは。
8列目の中央が出たときは、「わたしを買って」と言っているように見えました。(笑)

>今の公子さまにはもうお目にかかれないと思うと寂しいですね。
ホントに。時分というものもありますし、鏡花ものは玉三郎さんあっての公演だと思うので、次回があるのか?という思いもあって行っちゃいました。

投稿: kirigirisu | 2006年7月31日 11:05

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/21013/11135017

この記事へのトラックバック一覧です: 魅せられて :

« GyaOで訪欧歌舞伎公演inロンドン | トップページ | 「獅子虎傳阿吽堂vol.3」出演者決定! »